[0169]cosα法の原理

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x線応力測定の共通仕様

cosα法の特徴



X線応力測定(残留応力測定)の原理を式1つだけでわかりやすく説明するものです。

X線残留応力測定センター info@stress.co.jp  は、鋼とアルミを対象に安価かつ短納期の応力測定サービスをご提供しています。

以下にX線応力測定の概念図を示します。

格子面間隔分布変化


以下の六角形は結晶粒だとします。実際にはありませんが同じ大きさものものがあったとします。

無応力の場合は、A,B,Cの長さは同じです。



圧縮の応力が加わると力が加わった方Bが縮みます。A、CもBほどではありませんが縮みます。



引張の応力が加わると力が加わった方Bが伸びます。A、CもBほどではありませんが伸びます。



ABC長さは、応力の正負と大きさによって図のように変わることがわかっており、ABCの長さの分布により応力が推定できます。


以下詳細説明


当社は実際に測定する会社ですので具体的な数字が記入してあります。当社の主なターゲット マルテンサイトとフェライト鋼を対象に 211面をCr Kα線で測定する際の数字です。図が小さくて見えづらい場合は、クリックすると大きくなります。

格子面間隔dと向きψ、応力σの関係

マルテンサイトとフェライト鉄 211面

左図は、鉄(フェライト)の格子面間隔を示す図です。



鉄BCCの原子間は、2.866Åですが、測定に使用するのは211面で間隔はd=1.17Å になります。残留応力により間隔は変化します。 参考2.87/1.17=√6 (6=22+1+1)です。


鉄フェライト211面の法線ベクトルと面間隔

結晶粒



図3.結晶粒の模式図


図4.応力とψによるdの変化




残留応力がゼロの場合は、211面の隣接する面との間隔は、 d=1.17Å ですが、残留応力があると211面間隔dが変化します。


ψは、被測定試料面の法線被測定結晶 211面の法線のなす角です。

応力なしの場合は、ψによってdが変化しませんが。

圧縮または引張の応力があるとψによってdが変化します。


図5. 211面間隔dの面角度ψと応力σの関係



211面間隔dとψの関係を図に示します。ψ=0度では、図の水平方向に応力がかかってもdが変化しませんが、ψが大きくなるにつれてdの変化も大きくなります。緑が残留応力なし、オレンジが引張応力、青が圧縮応力の場合の面間隔の分布です。(ポアソン比は考慮していません)



つまり、211面間隔dとψを調べれば応力が推定できるということです。211面間隔dは、法線方向に応力がかかると最も伸び縮みします。

ψ=0度付近は、211面法線方向と応力の方向が直交なので211面間隔dは変化しません。

ψ=90度付近は、211面法線方向と応力の方向が平行なので211面間隔dは最も変化します。

ψ=45度付近は、cosα法では理論上最も精度がでます。

他社に測定を依頼される場合は、なぜ45度で精度が高くなるか質問してみてください。わかりやく説明できれば合格です。


実際には、残留応力が、200MPaでひずみが1/1000程度なので、グラフで書いても認識できません、そこでこのグラフではひずみが誇張してあります。解説 鉄のヤング率は206GPaなので1/1000のひずみで発生する応力が206MPaです。




図6.回折現象ブラッグの式

211面間隔d, X線回折プロファイルの回折ピークの角度(2θ)の関係 ブラッグの式


この211面間隔d=1.17Å程度なので、dを直接測定するのは難しく、X線の回折現象を利用して回折ピークの角度2θを測定しdを計算します。


X線の波長は、 λ=2.29Å (Cr Kα線 固定です。)


ブラッグの式は

2dsinθ=nλ

X線回折ではn=1

2dsinθ=λ

ブラッグ角は、無応力時 θ=78.2度になります。通常の入射角度の補角になります。

図7.X線回折現象


入射X 線と回折X線の角度を測定すると2θが測定できるので2θの記述がよく出てきます。



図8.X線回折現象



結晶粒の模式図で示したように鋼の結晶粒は一般的にランダムな方向に向いています。

今は、試料面の法線方向を0°として、−12°,+12°,+13°,+47°の方向の結晶粒があったとします。


図9.応力ゼロ、X線入射角度ゼロの回折環


そこにX線を垂直(ψ=0度)に入射させると24度の所に回折環ができます。


24=180-2θ というわけです。応力がゼロの場合は、真円の回折環が2次元センサーに映ります。



図10.引張応力、X線入射角度ゼロの回折環


ここで試料に外部から引張応力を加えると格子面間隔が広がります。

2dsinθ=λ

dが大きくなりλが一定なのでsinθは小さくなります。

回折環は、点線の位置に変化します。引張応力で回折環が大きくなります。(点線)

しかしながら、応力ゼロの時の回折環の大きさ(絶対値)を小さな誤差で計算するのは難しく、応力を測定しても誤差が大きくなります。


図11.引張応力、X線入射角度35度の回折環



そこでX線の入射角度を35度程度にします。今度は、試料面法線から13度と47度の結晶粒で回折が起こります。

この2つは、格子面角度が違うため引張応力によるdの変化が違います。それで回折環が楕円になります。

この楕円から応力を計算する方法は、応力ゼロの時の回折環の大きさの精度がそれほどいらないので高精度な応力計算ができます。




 測定の実際 cosα法


X線を傾けて照射すると傾けた方向の応力が測定されます。測定点はレーザーでマーキングされます。




図12 左:測定の様子 右:測定点拡大

図13 2次元センサー上 デバイ間のピーク位置からひずみを計算した図。

:応力がほとんない状態。 :圧縮応力 :引張応力







図11の回折環は実際は以下のようになります。

この強度が一番高い頂点の角度からひずみを計算してプロットすると。残留応力がほとんどない場合(図左)圧縮の-1600MPa (図) 引張の1060MPa( 図)となり応力が計算できます。





図14は、応力が0になる黄色の円を加筆した図です


図14 2次元センサー上 デバイ間のピーク位置からひずみを計算した図に応力ゼロの円を加筆したもの。

左:応力がほとんない状態。 中:圧縮応力 右:引張応力


以上の説明を1つの図にすると図15のようになります。ひずみ(2θピーク位置)の真円からのずれで応力が推定され

2次元センサーの使用により圧縮、引張の他にせん断応力も測定できます。

応力値だけだと1次元ですが、せん断応力を用いると2次元の次元の違った解析を行うことができます。

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