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X線応力測定では、回折環から得られるひずみ信号に、応力に対応する成分と、それ以外の成分が含まれます。
解析方法によって、処理の順序や利用する区間、変動成分の扱いが異なります。当社では、通常のcosα法に加え、SWAP・MAF・LOCKを用いて解析結果を比較し、信号の状態に適した方法を検討します。
■ 1.通常のcosα法
通常のcosα法では、回折環上のひずみ信号に対向差分などの演算を行い、応力に対応する成分を取り出します。その後、cosαなどの基底に対する傾きを最小二乗法で推定し、応力を算出します。
基本的な処理順序:
ひずみ信号 → 対向差分などの演算 → 最小二乗法 → 応力算出
180°対向差分によって零次・二次などの偶数次成分が相殺されます。一方、一次・三次などの奇数次成分は残るため、その影響は後段の解析で確認します。
■ 2.SWAP:最小二乗と対向差分の順序を入れ替える
SWAPは、最小二乗法による推定を先に行い、その後に対向差分を行う方法です。
基本的な処理順序:
ひずみ信号 → 最小二乗法 → 対向差分 → 応力算出
通常のcosα法とは、処理する順序が異なります。
同じデータに対して両者を適用し、解析区間、欠損点、重み付け、応力以外の変動成分などが推定結果へ及ぼす影響を比較します。
演算が同じ線形処理として交換できる条件では、処理順序を変えても結果は一致します。したがって、SWAPの適用では、実際に用いる区間や推定条件を含めて比較することが重要です。
■ 3.MAF:局所的な変動を抑えてから解析する
MAFは、中央値処理と移動平均などのローパス処理によってひずみ信号の変動を抑え、その後にcosα法で応力を求める方法です。
基本的な処理順序:
ひずみ信号 → 中央値処理 → ローパス処理 → cosα法 → 応力算出
粗大結晶などに伴う局所的な突出や、応力に対応する滑らかな変化に重なる細かな変動がある場合に検討します。
中央値処理は局所的な突出の影響を抑え、ローパス処理は急な変動を平滑化します。
処理幅を大きくすると、応力に対応する成分の振幅も変わる場合があります。そのため、処理前後の信号を比較し、変動の抑制と応力成分の保持を確認します。
■ 4.LOCK:一次成分を同期検出する
LOCKは、回折環の一周にわたるひずみ信号を対象とし、cosα・sinαとの対応から一次成分の係数を求めるロックイン解析です。
基本的な処理順序:
ひずみ信号 → 解析区間の設定 → cosα・sinαによる同期検出 → 応力算出
一次成分を次の形で表します。
ε₁(α) = a₁ cosα + b₁ sinα
一次成分の振幅:
A₁ = √(a₁² + b₁²)
一次成分の位相:
δ₁ = atan2(b₁, a₁)
応力は、測定配置と応力算出式に対応する係数から求めます。合成振幅A₁を、そのまま垂直応力として扱うものではありません。
当社のLOCKでは、|cosα|>0.95の区間を除外して解析する設定を用います。除外区間があるため、利用する区間に対応した係数推定を行います。
■ 5.信号の状態に応じた検討
【局所的な突出や細かな変動が目立つ場合】
MAFによる処理前後の信号と応力値を比較します。平滑化によって応力成分まで変化していないかを確認します。
【高次成分の影響が疑われる場合】
通常のcosα法、SWAP、LOCKについて、同じ測定データから得られる結果を比較します。高次成分の影響は、解析区間と基底との関係によって変わります。
【一次成分の位相を確認したい場合】
LOCKなどによってcosα成分とsinα成分を分け、測定配置から定まる応力成分の位相との関係を確認します。
応力以外の一次成分が重なる場合、抽出されるのは両者が合成された一次成分です。位相のずれは整合性を検討する手掛かりになります。
【応力に対応する信号が弱い場合】
残差だけでなく、抽出した応力成分の強さとの関係を確認します。解析方法の変更に加え、入射角、測定時間、照射条件などの変更や再測定を検討します。
■ 6.解析結果の比較で確認すること
・算出された垂直応力とせん断応力。
・処理前後のひずみ信号。
・抽出した一次成分と残差。
・一次成分の位相。
・解析に使用した区間と除外区間。
・中央値処理やローパス処理の条件。
・測定方向を変えた場合の整合性。
残差を小さくすることだけを目的とせず、応力に対応する成分がどのように保持・抽出されているかを確認します。
■ 7.MSCRによる多方向の整合性評価
cosα法・SWAP・MAF・LOCKは、回折環上の信号から方向別の応力を求める解析方法です。
MSCRは、それらの方法で得た多方向の垂直応力・せん断応力から、同一位置の応力状態を再構成する方法です。
各解析方法について多方向のデータ組を作成し、次の項目を比較します。
・主応力と主応力方向。
・180°対向方向の測定値の差。
・方向別の実測値と推定値との差。
・特定方向に偏った残差の有無。
回折環上の信号の評価と、多方向の応力状態としての評価を組み合わせることで、解析方法の選択と測定条件の再検討につなげます。